リビングルームの猫足ソファーに腰かけるオデルに、ヴィーニャが声をかける。

「お待たせいたしました。皇王陛下。つがい様の身支度が整いました」
「待ちくたびれた」
「しかたないでしょ。女の支度は時間がかかるものなのよ」

 ヴィーニャの後ろから一歩踏み出したシルディアは、オデルに声をかけた。
 シルディアへ目を向けたオデルがルビーのような瞳が落ちそうなほどに見開く。
 それもそのはず。
 彼への好意があまり感じられない言動をするシルディアが、彼の瞳と同じ真紅のドレスを身にまとっているのだから。

 選んだのは真紅をメインに使ったドレスだ。
 背中がぱっくりと開いたデザインで、背中から胸元まで細やかなレースがあしらわれている。
 レースが生きるのはそれだけではない。
 シルディアの腕を覆うのも、全てレースでできている。
 幾重にも重なったドレープとタックは赤と橙のグラデーションを描く。
 交互に重なったそれは、まるで揺れる炎のように美しい。

 首元で一際輝くのは大粒のルビー。
 金色に輝く装飾品を脇役に添え、ルビーの美しさを引き出している。
 余計な宝石を使わないこだわりの見える逸品だろう。

 足を彩る靴は、踵が高い舞踏会用のパンプスだ。
 気合を入れた結果、ドレスに引けを取らないものを選んだら舞踏会用の物しかなかったのだから、仕方がない。

 一つにまとめた白髪は、赤色のリボンで止められている。
 両サイドは編み込まれており、凛々しさの中に可愛らしさを散りばめた出来になっていた。

 閉口してしまったオデルに、シルディアは居心地が悪そうに身じろぎをする。

「何か言ったらどうなのよ」
「! い、いや、なんて言ったらいいんだろう……。綺麗だ? 美しい? 可愛い? いや、そんな言葉じゃ言い表せない」
「そこまで褒めちぎれとは言ってないわ」
「事実だろう。シルディア以上に美しい女性を見たことがない」
「言い過ぎよ」
「美の女神すら嫉妬して、シルディアを殺そうとするだろう」

 大真面目な顔で言うオデルに、揶揄いの色は一切ない。
 そのためシルディアの頬に熱が集まってしまう。

「そ、んな褒め殺しみたいな言葉……」

 初めて自身に送られる褒め言葉にタジタジとするシルディアを横目に、ヴィーニャがオデルに耳打ちをする。
 彼は迷いなく頷き、一言手配しろと命令した。
 ヴィーニャが彼の命令に答えるべく、礼をして退室した。