「つまり、サボり!? 皇王が!? ありえない。今すぐ公務に戻らないと」
「サボりだなんて酷いな」
「事実でしょ!?」
「俺はシルディアの傍にいたい。俺はシルディアさえ隣にいればそれでいいのにな。あ、公務をしてほしいって言うなら、皇王の世継ぎを作ることも大事な仕事だと思うよ?」
「っ!?」
「……流石にシルディアに嫌われそうだしやめとこうかって、ん? 真っ赤になって可愛い。なぁに? 想像した?」
「うるさい」

 赤く染まった顔を見せないよう、シルディアは顔ごと逸す。
 隣で忍び笑いが聞こえたが気にしない。

(マイペースに見せかけて話の主導権を握るのが上手い)

 シルディアは起床してから今に至るまで振り回されっぱなしだ。
 けっして気を許しているわけではないというのに、オデルのペースに呑まれている。

「何を考えているのか、手に取るように分かるね」
「え?」
「俺に主導権を握られるのがそんなに嫌?」
「当たり前じゃない」
「気が強いところも可愛いな。あ、じゃあ主導権を奪い返してみたら? 案外簡単かもしれないよ」
「わたしが奪えるとは少しも思っていないでしょ」
「うん」

 あっさりと頷かれ、シルディアは頭を抱えたくなった。
 駆け引きはできないと侮られているのだろう。
 そう思われていたとしても、シルディアは何もかもが掌の上だと笑うオデルに一矢報いたくてしかたがない。

(でも、今はその時ではないわ)
「なにか企んでるね。楽しみにしとくよ」
「……そこまで分かっていて止めないのね」
「シルディアがしてくれることなら、俺はなんだって嬉しいからね」
「オデルはわたしが剣を向けても喜びそうだわ」
「当たり前じゃないか」
「当たり前なの……?」
「だって、それだけ俺のこと思ってくれたってことだし……。それに」
「それに?」
「その時だけは、シルディアの綺麗な瞳に俺だけが映るんだ。たまらないよ」

 オデルは恍惚とした表情を隠さずさらけ出す。
 顔色一つ変えなかった彼のその表情はわざとだろう。

「わたしの反応を見て楽しんでいるでしょ」
「あ、バレた」
「そりゃあそんな露骨に表情が変われば誰だって分かるわ」
「シルディアが俺を見てくれてる証拠だよね」
「話が通じるのか、通じないのか分からなくなってきたわ」
「シルディアの紡ぐ言葉は一言一句聞き逃さないようにずっと聞いているよ」
「聞いていても話の内容が噛み合っていないのよ! もうっ」

 ふんっとそっぽを向けば、オデルは少し慌てたようにシルディアを抱きしめてきた。