オーケストラの
練習が終わったあと
理緒は充実していたが
桜田先生が
「ちょっと来てください」と
理緒を呼び、
別室に連れて行かれた。
桜田先生が理緒に
「オーケストラの感想は
どうでしたか?」
「はい、 とても楽しかったです
こんなに響き合うだなんて…
ただ私、なんとなく
皆さんに合わせるのが難しくて…」
桜田先生は黙っていた。
「あの、私、何か?」
そう言うと、桜田先生に
「バイエルの初級編の
"こぎつね"を弾いてください」
と言われた。
「え?こぎつね? どうして…?」
「とにかく、ひいてください」
理緒は仕方なく"こぎつね"を
ひいたが、 桜田先生が
手を振ってやめるように指示した。
「では"アビニョンの橋の上で"を
ひいてください」
今度はバイエルにはなかった曲だが
初級で誰もがひける曲だ、
理緒は言われるままにひいたが
しっくりこなかった。
桜田先生が、ため息をついた。
「あなたが常にひく曲は
素晴らしい、そして正しい音
高度なテクニック
間違いのない音です」
理緒もそう思っていた。
「もそれは全てCDのコピー
だったように思います
あなたの曲を弾いてほしい」
「…え?」
「モーツァルトは
全ての人のためにあります
あなたの解釈した
モーツァルトをひいてください
では、モーツァルト、
バイオリンソナタ第21番」
理緒はすんなりひいた。
桜田先生は、やめるように
指示した。
理緒はバイオリンの弓を放した。
「それは CD についていた曲ですね?
あなたの解釈はどうなんです?」
と言われ、理緒は
「…分かりません
先生、ひいてみてください」
「いえ、 私がひけば、あなたは
私の真似をします
あなたが、どう曲を解釈するのか、
私は、それを知りたいのです」
「解釈と言われましても…」
理緒は正しくひいたつもりでいた。
テクニックも良かったはずだ。
平衡感覚も良いはずだ。
「あなたは CD をそのまま
暗記しているか
何か テレビを見た時の音楽を
そのまま そっくり
コピーしているように感じます
今引いてるのは、
ベルリン・フィルほヤンソンス氏の
指揮者のCDをお手本にしたのでは?」
そのお通りだった。
桜田先生は見事に言い当てた。
そう理緒が一番好きな
バイオリンソナタ第21番だった。
「あなたの解釈をしなければ…」
「私の解釈はこれです」
「 いいえ、それは CDや
テレビのコピーです」
理緒は黙った。
「あなたの曲でひいてください」
そしてバイエルの一番初めの
きらきら星を、理緒の解釈で
ひいてほしいと桜田先生はいった。
「え?今更?キラキラ星?」
理緒はムッとした。
そして、きらきら星を
完璧にひき上げた。
それでも、桜田先生は
納得しなかった。
「あなたの曲を聴きたいのです!
それは練習曲についていた
CDの真似です!」
桜田先生は、ため息をついた。
「あなたは完璧です
完璧すぎる…
しかし、私はそれを望んでいない
次、オーケストラで
また、モーツァルトをひきます
みんなに合わせるだけでなく
あなたの解釈も聞きたい
あなたの息遣いも
小川が流れる静けさも
滝が落ちるような大きなしぶきも
太陽がさんさんと降り注ぐ窓辺も
そよ風も、あなたの解釈で
私は聴きたいのです」
理緒は、何を言われているか
さっぱりわからなかった。
「分かりました…
とにかく練習します」
理緒は不満気にうなづいた。

