病院に、すぐ警察官がってきてた。
男性警察官の一人と
女性1警察官一人が
別室に待機している
理緒のところへやってきた。

「あなたが加納理緒さんですね?」

「はい…」

理緒は、うつむきながら答えた。

警察官は理緒の顔のアザや
医者からレイプされたことを
すでに聞きいており

「ツラいと思うのだけれど
これ以上、加納さんのような
被害をなくすために
捜査に協力してもらえないかな?」

と優しく話しかけてきた。

もちろん、最初からそのつもりだ。

理緒は、静かにうなづくと
警察署に連れて行かれた。

理緒は医師が書いてくれた
診断書を提出した。

そして沢村医師も警察に
任意同行を要求され
警察署に来ている頃だろうー

理緒は事の経緯を
細かく警察官に聞かれるまま話し
この件に母親が
関わっていること
売春を斡旋させられたこと
暴行を受けたことを話し
警察官は、それを調書に
とって行った。

きっと今頃、
沢村医師は

あれは同意の上だっただの
母親も認める交際だっただのと
ほざいているに違いない。

警察署に来て2、3時間
経ったところ

「沢村先生は、まだ
警察署におりますか?」

と理緒が担当刑事に聞くと

「ええ、今取り調べ中です
あの、こちら、どうぞ…」

担当刑事は、理緒に気を遣って
ココアを出しながら告げた。

理緒はココアを一口飲むと

「沢村先生と、2人だけで
お話できますか?」

と担当刑事に伝えた。

「え?あの人と二人だけで
会って大丈夫?」

「はい」

「一応ね、事情聴取している
場合は被害者と加害者が
2人きりで会うのは…」

と刑事が戸惑うと

「それは十分、承知しています
ですが、現時点では
事件の取り調べ中で、まだ
被害届が受理されていません
つまり、まだ事件として
正式に受理されてません
なので私はまだ完全な
被害者でもなく
沢村先生も完全な
加害者ではありません
法律的にはそのように
解釈してよろしいでしょうか?」

そう理緒が告げた。

「まぁ…そうですが…
2人きりであって大丈夫ですか?」

法学部にいる理緒は
ある程度、法知識は分かっている。

そし、 警察署で沢村が
騒ぐとも思えない。

「ここは警察署です
私にとって身の安全の守られる場所です
ここでもう一度、沢村先生の
お気持ちをお聞きしてから
事件にするか、取り下げるかを
考えたいと思うのです
どうぞ、お願いします」

と理緒は静かに頭を下げると

「…分かりました」

と刑事が 個室を用意してくれた。
理緒はココアを持って
別室に移動した。

その10分後、 顔面蒼白の
澤村医師が部屋に
連れてこられた。

「何かあったら
呼んでくださいね」

と女性刑事が理緒を
心配そうな顔で見つめると
理緒は

「大丈夫です」

と伝えて、静かにドアは閉まった。

沢村医師は

「理緒ちゃん、あのね、
あの時はつい、感情的になって
…でも、暴行したつもりはないんだ
こんなことになって申し訳ない

ただ 私としては…その…
何と言うか、2人での行為というか…
同意の行為と思っていてね…」

理緒はココアを飲みながら
ゆっくり沢村を観察した。

ひたいから流れる汗ー
手のひらの汗ー
目の泳ぎ方ー

そして、今なら行けると踏んだ。

「私が大学を卒業するまで
あと27ヶ月です
毎月20万✕27=540万の支払いと
私が卒業するまで
家賃の支払いもお願いします
刑事事件にして欲しくないのでしょう?」

「…へ…?」

沢村医師は、ポカンとした
顔をした。

「知ってます?
売春防止法7条,8条
3年以下の懲役
または10万円以下の罰金

傷害罪、刑法第204条、
15年以下の懲役または
50万円以下の罰金

暴行罪より重い
量刑が科される
可能性が高いですよ?

だって私はケガをして
診断書がここにあるのだから

刑事事件にしてもいいんですよ?
民事でも追求させてもらいます。

それを示談にしてあげると
私から申し出てるのです」

沢村は理緒の魂胆が
ようやく分かった。

「これまで面倒を
見てきたのに
その態度か!」

沢村は本性を現した。

「先生の面倒を見てきたのは
私でしょう?あなたの性欲の
処理を手伝ってきたのだから」

理緒は涼しい顔でココアを飲んだ。

「悪いけど、うちの病院にも
顧問弁護士がいるんでね
いくらでも戦おうと思えば
こっちだって、やれるんだよ?」

沢村はニヤリとした。

「そんなことは
とっくに存じております
でも、オタクの顧問弁護士は
当番制でしょ?固定ではない。
固定弁護士じゃない弁護士が
買春斡旋と傷害罪で起訴される
医院長をどこまでかばうかしら?

それに、お祖父様の代からの
外科病院の名誉を傷つけてまで
私とやり合います?

無実を証明します?
裁判やります?

それより内々に示談にしたほうが
あなたの病院の名誉は
傷つかずに済むと思います。
患者もさぞ減ることでしょう。

こちらには診断書と
実際、お金が振り込まれた
通帳がありますから
あなたが勝つ可能性は
ありません。

なので、 示談にしてあげましょうと
言っているんですよ」

理緒は一口、
ココアを飲んで
沢村の顔をじっと見た。