急いで散らかった玄関に
靴を脱ぎ捨て、姉の部屋の
奥へ入った。

そこには、痩せ細って
ぐったりし、さらに
脱水症状気味の理緒が倒れていた。

「なんてことだ…理緒ちゃん!」

亮二はすぐに、
理緒を抱き起こした。

「どういうことだよ!?
真理子姉さん!!」

「…どういうことって
…仕方ないじゃない
病院連れてくお金ないんだから…」

真理子はバツが悪そうな
顔をしてタバコをふかした。

理緒は3月に大学を
卒業したはずだ。

「就職活動はどうなってるんだ!?」

「… 受かったわよ
ついでに大学院も」

「 じゃあ何で家にいるんだよ!
もしかして真理子姉さん…!」

真理子は、うつむいた。

「虐待してたのか!?」

「虐待なんかしてないわよ!」

「じゃあ、なんだよこれは!?
何でこんなに痩せ細ってるんだよ!?
一体どうなってるんだよ!?」

「いいから、大丈夫だから!
亮二は帰って!」

「そんなわけにいかないだろ!
理緒ちゃん、しっかりするんだ!」

亮二は理緒を揺すったが
理緒の意識が朦朧としていた。

顔や手は薄汚れ
お風呂にも入れてもらってない
様子だった。

「なんてこと…
それで男と遊び回ってるのかよ!?
自分の娘はどうでもいいのか!?」

「私だって好きでこの子を
産んだわけじゃないんだよ」

「姉さん、やめろよ!」

「こんな子、ジャマなのよ!
何が大学院よ、何がバイオリンよ!
偉そうに…」

「姉さん、理緒ちゃんの前で
なんてこと言うんだよ!!」

理緒はピクリとも動かない。

ただ一点を見つめ
ぼーっとしている。

「ダメだ、救急車を呼ぼう」

「やめてちょうだいよ! 」

「仕方ないだろう!?」

「あんた医者なんだから
この子、何とかしてよ…」

「ふざけるな!!」

「じゃあ、アンタが面倒見てよ
もうお金はいらないからさ」

真理子は、

「どうせ出来ないでしょ?」

という目で亮二を見て
二本目のタバコに火をつけた。


亮二は

「ああ、分かったよ!
金の切れ目が縁の切れ目ってことか!
娘が死にかけてるのに!」

「なによ、あんたが
育てればいいでしょ?
金遣いが荒い悪妻と別れたんだから
その金、この子に回してやったら?」

真理子は悪びれる様子もなく
タバコをふかした。

亮二は、すぐに理緒を抱きかかえて
車に運んだ。

そして自分の実の姉に

「もう二度と理緒ちゃんと
オレに関わるな!
金はくれてやる !」

と、亮二は捨て台詞を吐いた。

真理子は何も言わず
バツが悪そうに
タバコをふかしたままだった。

とにかく亮二は理緒を
近くの病院に運んだ。

医者は、脱水症状と
栄養失調と診断し
理緒の身体から
複数のあざが見えたので
亮二に虐待が疑われたが

亮二は自分が医師であることを伝え
姉のところから、理緒を
引き取ってきたと伝えると
医師は納得した。

しかし、医師は
警察に言うべきか悩んでいたが
自分が面倒見ますので
今回だけは、と頭を下げる
外科医の亮二に医者も

「今回だけですよ」

と見逃してくれた。