それから理緒は
沢村が指定する日に
ホテルに行き
行為に及んだ。

最初は優しかった沢村
だが次第に行為が
エスカレートしていき
理緒は恐怖を感じていた。

しかし沢村、は約束通り
家賃と月々理緒に20万の
支払いを続けていたので
理緒はこの条件を
飲むしかなかった。

それでも、いつ、沢村との
関係が切れるか
分からないので
アルバイトはそのまま続けた。

大学の講義も全部出席したし
バイオリンにも
いつも通り通った。

しかし理緒のやつれた変化は
周りの人々から見ても
明らかだった。

キャンパスの学食で
ある友達が

「ねえ理緒ちゃん…」

と気まずそうに
話しかけてきた。

「何?」

理緒はサラダを食べている
箸をおろす。

「最近すごく痩せたよね…
大丈夫?変なダイエットとか
してない…?」

友人が心配そうに
理緒を見つめた。

「ダイエット?
そんなのしてないけれど…」

「でも理緒ちゃん、
ものすごく頑張って
アルバイトしてるし
お母さんは何も言わないの…?」

「母は私に無関心だから」

理緒は安いサラダを食べ続けた。

友人は心配そうに
理緒を見つめた。

バイオリンでも
桜田先生が

「…理緒さん、最近
体調は大丈夫ですか?」

と聞いてきた。

「え?大丈夫ですけど…
何か音に問題でも?」

「いや バイオリンは
問題はないのだけど
疲れているようだから…」

「大丈夫です」

理緒は微笑んで見せた。

まさか自分の体が
母親によって
売られているなど
口が裂けても言えなかった。

桜田先生は、そんな
理緒を案じてか

「辛いことがあったら
先生に言いなさい
何でも聞くから…」

その言葉に理緒の目がうるんだ。

もとはといえば
川村先生のご紹介で
桜田先生のところへ
通わせてもらっている。

そのバイオリンの月謝も
まだ 川村先生が
支払っているのだろう。

こんな程度のことで
2人の先生の顔に
泥を塗るわけにはいかない。

「 先生、私もっと頑張ります」

そう言った理緒だが
目から涙が一粒こぼれた。
それを見た桜田先生は

「 バイオリンを少し
休んだ方が良さそうかい?」

と聞いてきたので

「そんな…!やめてください!
川村先生のご負担が
辛いのでしょうか?」

と聞くと

「いやいや 、そうじゃなくて
ただ理緒さんが、最近
疲れてそうだから…」

「疲れてなどいません」

ここでバイオリンまで
奪われてしまえば
理緒は、ただの何もない
人間になってしまう、
そう思った。

「私は頑張ります」

理緒がポロポロ
涙をこぼしながら
言った。

「頑張ります」としか
言わない理緒に対し
桜田先生は困惑していた。

「何かあったら
相談してくださいね」

桜田先生は、理緒の生活苦を
案じながら、
寂しく微笑むのだった。