帰宅すると真理子の
有頂天な声がする。

「まぁ、沢村先生、
家賃までお支払いくださるの!
まぁ、まぁ、ありがとうございます
このご恩は一生、忘れませんわ!
本当に何から、何まで…」

理緒が帰宅したことも気づかず
真理子は沢村と携帯で
話し続けた。

理緒は狭い部屋の
ベッドに、バタンと
倒れた。

私が何をしたというの?
私は勉強を頑張った。
バイオリンも頑張った。
フィギュアスケートも頑張った。

でも、いつも、いつも
真理子が、これでもか、
これでもかと理緒の
人生の邪魔をする。

まるで理緒の不幸を
望んでいるかのようにー

父からの暴力も一度も、
助けてくれなかった母ー

運動会や卒業式にも
来なかった母ー

ついてきたの
ババ活あっせんの時だけー

理緒は自分がゴミのように
扱われ、人権などないと
悟った。

それはポロポロと
涙となって溢れた。

この先、自分はどうなるのか?
大学にはちゃんと行けるのか?
バイオリンは上達するのだろうか?
就職は?

大学院はこのままだと
お金がないので
あきらめるしかない…

これからも身体を売って
生き続けるのだろうか…?

理緒は悲しみと
漠然とした不安感で
その日は眠ることも
泣くことも出来なかった。

そして、理緒の精神は
理緒が気づきもしないところで
静かに、むしばまれていったー