颯爽と駅に向かう理緒だが
実は、余裕ぶって
いられない現状があった。

川村コーチや、学校に
隠しているが、右足が脱臼した。

最初は痛みに悶え、苦しんだが
自分で何とか、脱臼した
ヒザを入れた。

母親に言っても
病院に連れて行って
もらえないことは
百も承知だ。

そして一度、脱臼したヒザは
何度も脱臼しやすくなってきている。

それがフィギュアスケートに
影響を及ぼさないか
毎日、心配でならなかった。

そして、その不安は
とうとう大会で起こってしまった。

大会での10分間練習のとき、
よそ見をしていた選手が
理緒と衝突し、
理緒はそのままぶっ飛び
リンクに転倒し、同時に
足を脱臼し、半月板損傷を
起こし手術となった。

医師から理緒のヒザは
生まれつき奇形であること言われた。

「こんな足でフィギュアスケートを
続けるなんて、とんでもない!」

と、主治医は
フィギュアの引退を迫った。

「それでも私はやめません」

と理緒は、頑なに
引退を譲らなかった。

川村コーチには、
数え切れないくらいの恩がある。

小学生3年生の時から
ずっと理緒の面倒を
見てくれた川村コーチ。

修堂女子高校に入ったのも
川村コーチがいたからだ。

ここまで来れたのも
川村コーチがいたからー

それを奪われるぐらいなら
死んだ方がマシだと
理緒は思っていた。

理緒は病院を出ると
村上コーチに会いに
リンクへ向かった。

そこには、子どもたちを教える
川村コーチがいた。

理緒と目があい
リンクから、村上コーチが
上がってきた。

ギブスをつけ松葉杖を
つきながら、理緒は
川村コーチに頭を下げた。

「大会では、申し訳ありませんでした
治ったら、早くリンクに戻ります!
休んでいる分を急いで取り返します!
これからも、ご指導、
宜しくお願い致します」

そう、頭を下げた理緒に、
川村コーチは、
思わぬ言葉を放った。

「ヒザ、奇形だったんですってね
早く分かって良かったわ
選手生命は短いものよ
あなたの場合は、特に短かったー
お元気で、さようなら」

そして川村コーチは
理緒を無視するかのように
再びリンクへ行き
子供たちの指導に入った。

理由は完全に
川村コーチに
見捨てられたと分かった。

滑れない選手は
必要無いのだー

それを悟った瞬間、
ショックで涙も出ず
呆然としたが、

もう一度、川村コーチに
頼み込もうと思い
ずっと更衣室で
川村コーチが戻ってくるのを待ったが
何時間経っても戻ってこない。

理緒は松葉杖をつきながら
リンクを見ると
すでに清掃が始まっていた。

あたりをキョロキョロ見回すと
リンクの横のベンチで
川村コーチが泣いていた。

大粒の涙をこぼしながら
リンクを見つめ
目を真っ赤にさたコーチを見て
理緒も涙がこぼれた。

そして松葉杖をつきながら
静かにロッカーに
フィギュアスケート靴を置き
リンクを去った。