次は美大に通っている
大学1年生の木村花音(かのん)の
病室だった。
彼女は典型的な適応障害だった。

誠一郎が
病室のドアをノックし
「失礼します」
と告げドアをあけた。

看護師と医局員も病室に入ると
花音は、それを無視して
キャンパスに
一生懸命へ画をかいている。

担当医の小川医師が、

「木村さん、最近どうかな?
困ったことはあるかい?」

と一生懸命、声をかけるが
花音は、誠一郎一堂を
無視し続けた。

誠一郎は、
花音が描いてる画を見て

「素晴らしい風景画ですね」

と、声をかけた。

「アンタのオヤジには
こんなひどい絵じゃ、
章も取れないと言われたけどね」

花音は、誠一郎と
目を合わせることなく
冷たく言い放った。

誠一郎は

「父が申し訳ありませんでした
この度は、木村さんに
お詫びをしたくて…」

と言うと花音は、
絵の具がついたパレットを
誠一郎に投げつけた。

誠一郎の白衣は赤や黄色や青で
ベトベトになった。

その光景を見て
他の医局員も看護師も固まった。

「アンタのパパは、
この画を素晴らしいって言った!
さすが美大に入っただけあるねって!
だけど退院する前に、
アンタのパパは、
こんなんじゃ章も取れない
佳作以下の作品だって!

画なんて分からないくせに
親子そろってクソだね! 
   
もう私の病室、
来なくていいから!

教授回診なんて
こっちが、めんどくさいよ!
早く出てけ!シネ!」

花音は誠一郎に今度は
筆を投げつけた。

誠一郎は

「本当に父が申し訳ありません」

そう言って皆に目配りし
花音の病室を
あとにしようとしたとき、
誠一郎は、ふと立ち止まった。

「私はその画を素晴らしいと思います」

そう言って、花音の病室をあとにした。
それでも花音はうつむいたままだった。