夜、母と父が話している
声が聞こえる。

「お前は少し、 
誠一郎にかまい過ぎだ」

「私は栄養を考えて、
いつも献立を作ってるのよ
最近、親がきちっと作らない
家庭も多いじゃない」

「分かってるよ
もっとうまく作れば
誠一郎も食べるんじゃないか」

「私の料理が不味いから
誠一郎が食べなかったっていうの?」

「そうじゃないけど、たかが、
ニンジンとブロッコリーで
そんなに騒ぐことはないだろう
誠一郎も中学生なんだ、
他の栄養素で補えばいい」

「あなたのように
立派に育ってほしいのよ!」

「誠一郎はもう十分立派だ!
お前が口を出さなくても
大丈夫だ!」

「お弁当箱を投げつけるなんて
思春期も甚だしいわ!」

「思春期なんだから
仕方ないじゃないか!
お前が口うるさく言うからだ!」

「私は誠一郎が心配なのよ!」

「お前は心配し過ぎだ!」

最近、誠一郎のことで
父と母が口論になるようになった。

誠一郎は、なんとなく
父に申し訳なく思った。

母親が自分のために
お弁当を作って
くれているのも分かる。

栄養を考えて
くれていることも分かる。

忙しい父親代わりを
してくれているのも分かる。

そして、母が
大好きな父のように
なってほしいのも分かる。

でも、わざと
ニンジンとブロッコリーを
残した。

それが、誠一郎の母親への
精一杯の反抗だった。

でも二言目には

「お父さんのようになれ」

と言われ続け
誠一郎の何も認めない母と
心の距離はこの頃から、
完全に離れていった。

誠一郎は、左手の甲を
カリッと引っ掻いた。