これだから、夏帆には知られたくなかった。


長年付き合っている分、私の事はよく知っているから、ちょっとでも可笑しな事があるとすぐに心配してくる。


その気持ちは凄く有難いけど、余計な気遣いを掛けさせたくなかった為、黙っていようと思ったのに……。


まあ、こんな露骨にバレるような振る舞いをしていた自分が全て悪いのだけど。


そう反省しながら、私は無言で首を横に振った。



「ありがとう。本当に大丈夫だから。ちょっと人から頼まれてたの。それを私も一緒に探してるだけ」


そして、名前こそは出さないけど、嘘偽りない理由をやんわりと微笑みながら夏帆に打ち明けた。


「へえ~、そうなんだ。人に頼む程の探し物って……よっぽどその人にとって大事な物なんだね」


それに対し、夏帆は顎に手をあてながら、それ以上詮索することなく納得したように小さく頷く。


「……全く、本当に訳が分かんない」


私も核心突く夏帆の言葉に、つい心の声が漏れてしまった。

「えっ?」


それを拾ってきた夏帆が、きょとんとした顔で尋ねてきて、私は慌てて首を横に振った。


「何でもない。それより、メニュー何にするか決まった?」


これ以上掘り下げられないように、食堂の食券売り場前に着いた私は話を逸らすと、夏帆は険しい表情で唸り始める。


「そうなんだよねえ。今カツ丼かカツ定食かで迷っている」


「何それ。どっちも変わらないじゃん」


何を真剣に考えているのかと思いきや、似たり寄ったりのメニューにがくっと肩がズレ落ちた。


「全然違うでしょ!味付けとか!あと、カツに卵を合わせるか合わせないとか!」




……うん。


激しくどうでもいい。



私は隣で力説する夏帆の話を右から左へと聞き流しながら、迷わず日替わりA定食の食券を買った時だった。