「…………え?相馬君それどういう意味?」

あまりにも軽い感じでサラッと言われたものだから、相馬君が言った好きの重みがいまいち分からない。

まるで友達や家族に言われたような感覚で、夢にまで見た瞬間な筈なのに、思っていたのとなんか違っていて呆気に取られる。

「そのまんまの意味だけど?」

相馬君も私の返答に不思議そうな面持ちで、首を傾げながら聞き返してきた。

「だから、友達としてなのか異性としてなのかってこと!相馬君って全然態度変わらないからどっちの意味で言ったのか分かんないよ!」
 
自分の言った事が全く伝わっていない状況に若干苛立ちを感じた私は、思わず強めの口調で憎まれ口を叩いてしまう。

「……ああ。なるほど」

けど、取り乱す私とは裏腹に終始落ち着いた様子で相馬君は頷くと、やんわりと口元を緩ませて一歩距離を縮めてきた。

「僕にとって君は特別な存在だよ。だって、あの時僕が見えてたのは君だけだったんだから」

そう言うと、顰めっ面の私の顔を覗き込んで、今度は眩しい程の満面の笑みを向けてくる相馬君。

「得体の知れない存在だったのに、こんな僕の為に必死になってくれて、怒ってくれて、泣いてくれて。そんな君のことを好きにならない筈がないでしょ?」

そして、とても穏やかで優しい相馬君の声が、荒んでいた私の心に染み渡ってきて、徐々に満たされていく。

先程までの悲しさや虚しさが嘘みたいに洗い流されていき、今私は純粋な気持ちで彼の綺麗な目をしっかりと見る事が出来る。

「朝倉さんは僕にとって美菜とは違う、かけがえのない人だよ。だから、君の側にこれからも居ていいかな?」

そこから伝わる彼の真っ直ぐな想い。

もう疑う余地はない、彼の真剣な言葉。

私も負けないように、これだけは素直にちゃんと伝えたい。


今までは放課後でしか現れなかった相馬君。

そんな彼の隣に居られた、私だけの特別な時間。

それがどれだけ幸せで、貴重なひと時だったか。後になって、ようやく分かった。

もう“特別”ではなくなってしまったけど、違う意味で特別な存在となった彼の傍は、これからも私だけのものにしたい。

この我儘で狂おしい程の愛しさを、しっかりと届けたい。

だから、とても恥ずかしいけど、私は全ての想いを込めて、彼に満面の笑みを向けてこの言葉を送る。

「当たり前じゃん。私の居場所はいつだって相馬君の隣なんだから」