心優しい国王は王妃を堂々と愛したい

「王妃様がご覧になったという百科事典を提示していただけますか?
王妃様の言い分が正しいかどうか確認したい。」
クヴァシルからの問いかけに
フレイアは思わず目を伏せる。
当然、百科事典など持ち合わせていない。
あの日、ヴォルヴァ達に捕らえられて以降、
フレイアはあの場所に足を踏み入れていないのだ。
「提示できないのですか?」
クヴァシルに再度尋ねられたフレイアは頷くよりほかなかった。

「証拠が提示できないようでは話に信憑性がありませんな。
口だけならどうとでも言える。」
勝機を見つけたとばかりに、
ヴォルヴァが勢いを取り戻す。
「王妃は薬を作っていたというが、裁判長殿。これを見てほしい。
これは王妃の居室から押収したもので、実際に薬に使用したそうだ。
これはどう見ても猛毒のマンドラゴラだ。
一部の研究者にしか所持することが許されない危険物です。」
そう言って、
ヴォルヴァが意気揚々と押収品を提出した。
「王妃様、何か反論は?」
押収品を一瞥して、クヴァシルがフレイアに問いかける。
「それはマンドラゴラではなく、モーリュという薬草です。
見た目は確かに似ていますが、効能は大きく異なります。
ジメジメとした湿地帯に自生しており、
私は実際にそれらをギムレー宮の森の湖のほとりで採集しました。」
「ふぅむ。しかし私にはこれがマンドラゴラか、モーリュか、判別がつかない。
専門家ではないのでね。」
クヴァシルの言葉に、
それまで黙って裁判を傍聴していたオーディンが立ち上がった。
「裁判長殿、私に発言をお許し願いたい。」
「もちろんですとも。国王陛下。」