心優しい国王は王妃を堂々と愛したい

国王が見繕った候補の中から
ヘリヤ王女が選んだのは、
隣国の第3王子であるジグムントだった。

顔はまぁまぁ整っているという程度だが、
背が高くスタイルが良いので
ヘリヤ王女としては十分及第点だ。
そして何より、
趣味がヴァイオリンと油絵を描くことという
インドア男子だったことが決め手になった。
趣味に生きるという感じで
権力への野心が無さそうだし、
女性関係で手を煩わせることもないだろう。
ジグムント側も特に異論はないということで、
なんともあっさりと、
さながら事務作業のごとく
2人は夫婦となったのだった。

愛のない政略結婚ではあったが、
2人はそれなりに上手くやっていた。
結婚から程なくして
第一子となるウルズ王女、
第二子のヴェルザンディ王女、
第三子のヴィーザル王太子が
間を置かずして立て続けに生まれる。
穏やかな夫に可愛い娘、
そして後継ぎとなる息子に恵まれ、
順調そのものだった。

しかし幸せは長くは続かない。
父である国王が流行病にかかり、
呆気なくこの世を去ってしまったのだ。
帝王教育を受けていたとはいえ、
若き女王の双肩にかかる重圧は
計り知れないものだった。
はやく1人前にならなければ、
いつ他国が侵略してくるか分からない。
父の代からの重臣たちに教えを請い、
ヘリヤ女王は寝る間も惜しんで勉強した。
当然子どもたちの世話は乳母に任せきりで
家庭生活は疎かとなる。
夜ぐらいは家族で過ごそうという
ジグムントの提案もすげなく却下した。
女王としての強すぎる責任感が
家族を犠牲にすることを正当化させた。

それがヘリヤ女王の不幸の始まりだった。