サーシャの薄紅色の丸い瞳から、ぽろぽろ涙が零れていた。初めて感じた味に、感激が溢れ出る。無味な人生がどれほど味気ないものだったか、誰にもわかるはずがない。サーシャは味を知らないまま死ねないと思っていた。
サーシャは婚約破棄に、追放死刑、さらには無味地獄のフルコンボを生き抜いてきた。
どんなに過酷でも生きたかったのは、美味しいものを食べてみたい願いがあったからだ。死を覚悟した死刑の先で、思いもよらずに願いが叶った瞬間だった。
(これが、美味しい……?)
初めての美味の感動にサーシャは涙が止まらなかった。異端者だからってあきらめないで生き続けて良かった。
求め続けた「味」は、泣けるくらい美味だ。
「私……こんな、キス、初めてです」



