サーシャは死刑を前にした大ピンチで、あっさりハイそうですかとは言えない。生き残りをかけて一秒も黙っていられない。両手を上げて降伏を示したサーシャは薄紅色の長い髪を振り乱して幼い頃からの隣人たちに説得を試みる。


女1人に、男5人で銃口を向ける腰抜けビビリ衆の中の一人は、サーシャの婚約者だ。


「ルシテ、私たち婚約者だよね。どうして嫁に銃向けちゃうかな」

「名前を呼ぶな!汚らわしい!」

「け、汚らわしい?!」


強烈な言葉に、サーシャは薄紅色の瞳を光速で瞬いた。そんな酷い言葉使うなんて驚愕に顎が外れそうだ。だが、顎を外してる時間はない。


「俺はもうお前の婚約者じゃない!早く死ねよ!」

「絶対言い過ぎ!私はたしかに紙を食べちゃったりして、ちょっと変わってるけど」

「あれはおぞましい光景だった。おまえは……人間じゃない。異端者だ」

「異端者……」


サーシャはちょっと紙を食べていたところを、婚約者ルシテに見つかってしまった。それは事実だった。


紙を食べる人間。


確かにそれはちょっと絵面的に怖かったかもしれない。