もはやお食事キッスを建前に付き合っているという噂がまことしやかに流れており、それを否定する者もいなかった。


サーシャはそんな噂が流れていることすら気づいておらず、レオナルドの耳は良かったが事実なので否定しない。


色恋に沸き立つ輩がいる一方、団長が引き締まった声で話し出す。


「次の任務は、この国の命運を背負った特別任務だ」


団長の発表に、団員たちはピリッとした空気になる。


「再三の遠征で集めた貴重な情報により、毒気の原因であると思しき洞窟を突き止めた。皆知っているな。大勢の仲間の犠牲のおかげだ」


サーシャの視界の端で、涙を浮かべる団員もいた。サーシャが途中参加した死の森での行軍は過去何度も行われていたようだ。


あんな大蜘蛛が闊歩する死の森を移動なんて多大な犠牲が出るのは当然だった。


「毒気の元凶である『何か』は、南の洞窟の奥底だ。

それがわかりつつ、今まで総力戦に踏み切れなかった理由は、食糧難だ。


長い行軍の行き帰りの食糧を用意できず二の足を踏んでいた。だが、窮する我々についに救いが訪れた。

サーシャ出てこい」

「わ、私?!」