彼はそれどころじゃないのに。 分かってはいるけれど、あたしは彼の声にうっとりとしてしまう。 「………では、お部屋までご案内致します」 フロントからの、お呼びがかかる。 意識が遠くに飛んでいたあたしは、ハッと我に返って、フロントの方に向きなおした。 え……――? 「笹木さん? 御案内、お願いします」 唖然としているあたしに、フロントの市来くんが引きつった笑顔で呼びかける。