包丁が飛んできたときだって『お姉ちゃん、ごめん』と謝っていた。
でも、一瞬の躊躇が命取りとなる。

若菜も純も、まだ亜希を解放しようとはしていない。
油断している間に亜希が鏡の中に引きずり込まれてしまうかもしれないんだ。

和也は心を鬼にして刃を食いしばった。
そしてお札を若菜の額に張る。

若菜は甲高い悲鳴を上げて、お札を張った額から灰になって消えている。
純が更に強く若菜の体を抱きしめる。

そんな純の額にも、お札を貼り付けた。
純はこちらを見るとうっすらと笑みを浮かべた。


「え……」


その笑みに困惑している和也へ向けて「ありがとう」と、聞こえてきたのだ。


「これでやっと、いくことができる」


灰になって消えていきながら、純はそう呟いて微笑んだのだった。