それからというもの、中庭で度々見かけるその少女に逢うのが楽しみで、伊織は頑張って食事をするようになった。
自力で歩くことが難しいほど、脚の筋力は衰えていて。
祖父か看護師が車椅子を押さなければ中庭へ行くことすらままならない。

けれど、確実に体力はついて来ていて、夏が終わりに近づく頃。
仲良くなったその女の子の祖母が退院することになった。

難病指定の病院だということもある。
一般の患者が入院する病院ではないため、中庭での過ごした時間は特別なものだった。

「よかったね。おばあちゃん、退院できて」
「うん!精霊様がお願いごと聞いてくれたお陰だよね!」
「……そうだね」
「だから、いっくんのお願いごともきっと叶うよ!」

女の子の祖母は、肺の難病と乳がんの悪化で伊織と同じ病院に入院し、肺の治療をしながら両乳房の全摘出手術をした。
女性にとって乳房を失うのは耐え難い苦痛を味わうが、命あってこそ。
少女の願いごとの紙には『毎日おばあちゃんの笑顔が見たい』と書かれていた。

祖母の手術のことはもちろんのこと、両親のことや学校での出来事など、時間をみつけては伊織に話して聞かせていた。
ずっと、学校へも行けず、友達もいない伊織のために。

そんな伊織が、初めて弱音を漏らした。
女の子の祖母の退院が決まり、もう逢えなくなると思ったからだ。

「僕の両親は、病気で痩せて行く僕を見るのが嫌になって来なくなったんだ」