優艶な瞳に囚われる。
逸らすことも瞑ることさえも許されない術にかかっているようで。
体が更に右側に沈み込み、黒い影に覆い尽くされるように彼が近づいて来た。
「随分と従順なんだな」
「……へ?」
「抵抗しないと襲われるという危機感はないのか?」
「……っ」
「フッ、今さら抵抗したところで、無意味だが」
色気のある薄い唇の端が僅かに持ち上がり、ゆっくりと私の唇に重なった。
ほんのりと甘いムスクの香りとワインの味。
後頭部を支える手の優しさと腰を抱き寄せる力強さに、久しぶりの感覚に体がついていかない。
「…っん……っ…」
八年前はあんなにも好きだった先輩との、あの夜のキスとは違う。
同じように不意を突かれてしているキスなのに。
社長とのキスは甘く蕩けるようで、体中に電気が走ったみたいに甘い刺激が貫く。
――思わずYシャツを掴んでしまった。
「まんざらでもない顔だな」
「っっ……」
ゆっくりと離された唇が目の前に。
唇が濡れていて、更に色気が増して見える。
「もっとして欲しいか?」
「っ……」
色気たっぷりな視線に釘付けになってしまう。
心の中を全て見透かされているようで。
綺麗な指先が襟元からその下へと伝った、その時。
ビクンッ。
脳裏に過った及川先輩の感触が蘇り、無意識に体が震え出した。
「すまない、怖がらせたな」
数秒前までの余裕のある顔ではなく、焦る社長の顔が視界に映った。
「ぅっ……」
「もう何もしないから」
「ぅ゛っっ……ンッ…」
知らず知らずのうちにしていた緊張の糸がプツっと切れた気がした。
怖くて、気持ち悪くて、忘れたい出来事を。
社長はそんな私を包み込むように、ぎゅっときつく抱き締めてくれた。