入社して四か月。
前の会社は男性社員が多かったが、今の会社は女性社員が大多数。
制服が無いため、毎日の仕事着にも気を遣う。
仕事に追われ、普段見えない下着まで買い揃える余裕がなかった。

下着ブランドなのに、その下着が他社製品だと社長にバレてしまった。
さっきまでの焦りとは違う緊張に、背筋が凍り付く。

伊織の視線が、栞那からパソコンへと落とされた、その時。

「システムに、下着になる理由があるのか?」
「っ……」

今さらその質問ですか。
もっと早い段階でして貰いたかった。

椅子の背凭れにかけたブラウスを羽織り、胸元を手繰り寄せて。

「WebサイトのUI……ユーザーインターフェースと言うんですが、操作性を考慮して設計をするので、配色やアイコン配置など、会社の商品イメージに合わせた方がいいと思いまして。実際の製品を試着したフィーリングはどんなものか、感性を確かめようかと」
「ふぅ~ん」
「っ……」

やっと質問したかと思えば、聞く気がないじゃない。
こっちは残業してまで完璧なものを作ろうと必死なのに。

既に二十一時を過ぎていて、このフロアは会議室しかないから誰も来ないと思っていたのに。
まさか、社長と出くわすだなんて……。

「社長は何故、この部屋に?」
「……あ、忘れ物をして」

コの字型に配置された机の中央部分の下を覗いた伊織は、黒いペンのようなものを拾い上げた。

「愛用の万年筆を」

残業している栞那に労わる言葉もなくドアまで進んだ伊織は、人差し指を栞那に向けた。

「うちの製品着けるなら、ワンサイズ上のDの七十を着けろ。今のままだと無駄に潰れて形は崩れるし、小さくなるぞ」
「っ……」
「俺の目測に狂いはない、本職だ」

ドアが閉まる一瞬、伊織の口角が僅かに弧を描いた。