『具合はどうだ?』
「……大丈夫です」

酔いなんて、とっくに醒めてる。
シャワーを浴び終え、髪を乾かそうとしたら、社長からの着信に気が付いた。
しかも、何度も電話してくれたみたいだ。
不在着信になっている。

電話越しの声は普段の声よりも少し低めで、ちょっぴり甘美な声音に聞こえる。

『料亭にいた男は、誰なんだ』
「……大学時代の先輩です」
『元彼か?』
「っ……」
『否定しないんだな』
「何て、答えて欲しいんですか」

優しい声音なのに、棘があるように聞こえる。
まるで、先輩に嫉妬してるんじゃないかと感じるほどに。

「今は関係のない人です、とでも答えたらいいですか?」
『フッ、……及第点といったところか』
「なっ……」

電話越しにクククッと笑う吐息が聞こえて来る。

『さっきみたいなことはよくあるのか?』
「……ありませんよ」

あったら堪ったもんじゃない。
元彼だとしても、許される行動ではない。

『今夜は一人で寝れそうか?』
「へ?………っ」

例え元彼だとしても、あんな風に襲われたから、気を遣ってくれているのかもしれない。

『寝付けなかったら、連絡しろ。迎えに行ってやる』
「っ……、だ、大丈夫ですっ」
『強情な女だな』
「わ、悪いですか?!この歳まで独り身で男性社会で仕事して来たんです。弱い所なんて見せれませんよ」
『フフッ、まぁ、そういう成海も悪くない』
「なっ……」
『しっかり髪乾かして寝ろ。風邪引くぞ』
「……え?」
『おやすみ』

透視能力?
それとも、この部屋に隠しカメラでもあるのだろうか?

ツーツーと無機質な音が耳に届く中、栞那は部屋中を見回した。