「嫉妬か?」
「べっ、別にそんなんじゃ…」

妖艶な表情を向けられ、栞那は咄嗟に逃げるように視線を逸らした。

「じゃあ、俺にどうして欲しいわけ?」
「っ……」

ぎゅっと掴まれる手首が熱い。
視線だけでなく、体をも拘束するようで。

「成海」

名前を呼ばれただけなのに、その声一つで何かが変わるような気がする。

「三井(秘書)以外で、この家に入れたのはお前が初めてだ」
「……」
「仕事とプライベートはきっちり区別してるつもりだ」

真っすぐ見据える伊織の瞳は嘘を吐いているようには見えない。
それでも、モテ男の常套句なのかもしれないと思った栞那は、言い返す言葉も見つからず、真一文字にぎゅっと唇を噛み締めた。
すると、ぐいっと体が引き寄せられ、あっと思った瞬間には伊織の膝の上に抱き留められていた。

「し、仕事とプライベートは、きっちりと、区別してるんじゃないんですか?」
「そのつもりだったが、……違うみたいだな」
「へ?」

すっと伸ばした伊織の手が栞那の頬横を掠め、髪がそっと耳にかけられた。

「ッ?!!ゃっ……触らないでッ!」

栞那は伊織の手をパシッと払った。
半日前の出来事が脳裏を過ったのだ。
Yu@の髪を優しく耳にかける伊織の姿が。

「フッ、……可愛いな」
「っ……」
「気まぐれな猫みたいで、手懐け甲斐がある」
「なっ……」

栞那がキッと睨み返すと、そんなことも楽しんでいるかのように伊織は栞那のこめかみにキスをした。

「ちょっ……な、何するんですかっ?!」
「愛撫」
「ッ?!!」
「可愛いから、愛でただけ」

伊織は口元を手で隠しながら、面白がるようにクククッと喉を鳴らした。