約半月ぶりに会った彼から、“今日で、……終わりにしようか”と告げられた。

「もう限界なんだ」

絞り出すような彼の声に、視界に映る全てが粉々に砕け散った気がした。

「もっと仕事に集中したくて…」
「……そうだよね。………ん、分かった」
「ごめんな、勝手に決めて」
「……ううん、平気だよ。いっくんの重責は分かってるから」

数日前から社内で聞いた噂。
『社長が美人モデルと結婚するらしい』という、ありえないような噂話を。
完全にゴシップだと思っていたのに。
数時間前に見た光景が目に焼き付いていて。
それを裏付けするような彼の言葉に、どう反応していいのか分からない。

だけど、大手企業の社長という立場を考えたら、私が駄々を捏ねるのは迷惑だろうし。
そもそも、自分が彼をちゃんと支えられる自信なんてない。

寄り添うことは出来ても、アパレルに関しての知識も無いし。
裏方のようなシステム上の管理でしか役に立たない。

「出張から帰って来たばかりで疲れてるだろうし、それじゃなくても不在の間の仕事も沢山あるだろうし。明日も会社はあるし、今日はもう遅いし。私も明日は新年度用の引き渡しがあるから…」

視線を合わせないように。
彼を視界に収めないように。
彼を引き止めようとする気持ちを必死に押し殺して、立ち上がる。

「アルコール入ってるみたいだから、タクシー呼ぶね」
「栞那」
「ごめんっ、……ちょっと電話して来る」
「栞那っ」

今にも零れ落ちそうな涙を堪え、その場を離れようとした私の手首を彼が掴んだ。