「何度言ったら分かるんだっ!他社と被るようなデザインも企画もうんざりだ。流行を真似るだとか先読みするという意識は捨て去れ。己の目と手と心で、紡ぎ出してみろ。自分がデザインしたものが流行をつくるくらいの気概を見せくれ。世界中の人々から注目されるくらいの自信と誇りをもってデザインしろ!『育成ブラ』だの『楽らくブラ』だの、丸被りだろっ!やる気はあるのかッ?OLや主婦だけでなく、新生児から高齢者に至るまで、保育園や病院や結婚式場だとか、それこそゲートボール場でもいいからターゲットを絞って徹底的に追え!他社にない究極の路線を紡ぎ出す根性を見せろっ!」

自社の各部門のデザイナーが集結するデザイナー会議で、夏と秋冬のデザインプレゼンを幾つか見た伊織が鬼雷を落とした。

デザイナーといっても、安直に流行を先読みしたデザインを求めているわけじゃない。
Bellissimoという大手ランジェリーブランドだからこそ、日本を牽引して世界で通用するブランドにするために。

社長という立場ではなく、デザイナーという立場であれば、伊織の腕はフランスやイタリアの有名ブランドからもオファーが来るほど。
斬新なのに美しく、男女問わず『身に着けたい』と惹きつけるデザインや機能性が追及されている。
ランジェリーに限らず、ファンション業界でもある意味有名で、伊織を活かしたいというブランドは少なくない。

「来週の同じ時間にここで。各部門でそれぞれ方向性を決め、最低三点の企画案を纏めてくれ。今日はここまでとする」

伊織が会議室を後にすると、どっとその場に安息の溜息が充満する。

ヒット商品を生み出すというより、市場に出回らない度肝を抜くような新しい世界をつくり出したいと考えている伊織。
今ある安寧で終わらず、更なる飛躍をするために……。