伊織の自宅に帰宅した二人。
栞那が着ていた服や靴が入れられた紙袋が玄関の床にバサッと落ちた。

「んっ……」

ヒールを脱ごうとした栞那を抱き寄せ、伊織は少し強引に唇を塞ぐ。
会場でもずっと腰に手を添えたり、腕を組んだりしていたし、車内でもずっと恋人繋ぎだった。
なのに、帰宅したと同時に紳士的な仮面を脱ぎ去ったのか。
いつもの優しいキスではなく、荒々しいキスが降って来る。

「っん……いっく…んッ」

栞那は伊織の胸を小突いて、必死に抵抗すると。

「……三井ですら、嫉妬するって言っただろっ」
「ふぇっ……?」
「俺が会話してる時に、ドレスの裾を軽く踏んで前のめりになって、すかさず三井が栞那の胸に手を添えるみたいにしてただろ」
「……あっ、あれはだって……」

小突く手を阻むようにきつく掴まれた。
胸元が大胆で裾が長いドレスを用意したのも、胸元にキスマークを付けたのもあなたなのに。
ちょっとしたハプニングをフォローしてくれた三井さんに嫉妬するだなんて。

「次にドレス着る機会があるなら、もう少し人前で歩きやすいデザインのにしてね」
「……欲張りだな」
「他の人に見せてもいいなら私は構わないけど」
「……なんか腹立つな」
「ンフフッ、いっくん可愛い」
「っ……」

伊織は栞那の手を掴み、部屋へと向かう。
着いた先は窓から月光が差し込む寝室。
冷たいベッドの上に栞那を軽く放り、伊織は覆い被さるように跨った。

月明かりに照らされる栞那をじっくりと眺め、ネクタイの結び目を解き、ツーっと伊織の指先が首筋から胸元へと這い伝う。

「悪い、手加減してやれそうにない」

栞那の華奢な両腕が伊織へと伸ばされる。
伊織の瞳に映る栞那は可憐で愛らしく、優艶な美しさも孕ませた色香を纏っている。
久しぶりに迎えた蜜なる夜は、伊織の熱く迸る視線に甘く絆されてゆく―――。