すらりとした美人の店員さんが手にしているのを目にして、心臓が大きく脈を打つ。
試着室とは思えないほどの大きさの個室に通され、楕円形の姿見の横にそれが掛けられた。

「着替えが終わりましたら、お声掛け下さい」
「……はい」

“着飾る”レベルじゃない。
どう見てもこれは、ハイクラス仕様の衣装だ。

壁掛けフックに吊るされた衣装は淡い桜色したロングドレスで、ボディラインが綺麗に見えるマーメイドデザイン。
アンダーバスト部分から背中にかけて少し濃いめの桜色したリボンがあしらわれ、流れるような刺繍のトレーンが美しい。

八センチほどのピンヒールにもドレスと同じ桜色のリボンがあしらわれ、ピアスとネックレスはプラチナのスッキリとしたデザインで、揺れるとキラキラとダイヤが輝く。
白い小さめなクラッチバッグを差し出され、スマホと財布とハンカチをそれに移した。

あれよあれという間にメイクとネイル、ヘアセットも施され、最終仕上げに香水が吹きかけられた。

鏡に映る自分が別人に見える。
馬子にも衣装というやつだ。
友人の結婚式で着飾ったことは何度もあるが、それとはレベルが違い過ぎる。

「元がいいから映えるな」
「ッ?!……いっくん」

チャコールグレーのスリーピースを身に纏う伊織が鏡越しに映る。
精悍かつインテリジェンスなスーツ姿に、栞那の胸はドキッと高鳴る。

「俺の目測に狂いはないな。良く似合ってる」
「っっ」

栞那の背後に立った伊織は、スッと腰に手を添えた。

「もう騙さない約束だったんじゃ?」
「騙してないだろ」
「詳しく聞いてもいないけどね」
「フッ、……悪かったな」
「ちょっ…とぉ、な、何してるのッ?!」
「魔女除け」
「はぁぁっ?!」

胸元の生地ギリギリ隠れるかどうかの部分にキスマークを付けた伊織は、満足そうな笑みを浮かべた。