夕食を済ませ、お風呂も済ませた伊織と栞那はビールを飲みながら、リビングでDVD鑑賞を始めた。

「そう言えば、山下には驚いたな」
「……うん」
「まさか、あの顔で童貞だとは思えないだろ」
「だよね。……でもね、この業種に就いてる人って、意外と経験が浅いか遊び慣れてるか、結構極端なんだよね」
「そうなのか?」
「うん。Bellissimoは恵まれてる環境だけど、代理店とか専門会社とかだと午後出勤して朝方帰宅することなんてザラだし。だから、まともな恋愛ができる方が少ないかも。余程理解してくれる相手がいない限り」
「そうか」

薄暗くしたリビングに照らされる大型テレビからの灯り。
SF映画の効果音が室内に響く。

「いっくんに聞きたかったんだけど、ご両親とは連絡取ってないの?」
「ん」
「そうなんだね」
「二十一歳の時に分籍して、籍を抜いてある」
「え?」
「それに、生前遺産放棄は法律上認められてないけど、遺留分放棄は生前でも可能だから、それは既に手続きしてある」
「そんなことまで……」
「まぁ、それだけ俺の意思が固いってことだよ」
「……ん」
「だから、家族に結婚の許可だとか承諾だとかは考えなくていいから」
「……」
「安心しろ。栞那のご両親には挨拶に行くし、ちゃんと承諾して貰うから」
「承諾だなんて、気にしなくて平気だよ。うちも崩壊してるようなものだし」
「それでも、挨拶くらいはさせてくれ」

どちらともなく視線が絡まる。
世の中、絵に描いたような幸せな家庭だけじゃない。
幸せに祝って貰えなくても、もう子供じゃない。
自分の幸せは自分の手で掴むだけ。

この人の手をしっかり繋ぎ留めていられれば、それでいい。