「なんか、珍しいね。こずえちゃんって、いつも大人の余裕があって、どんな時も落ち着いてアドバイスしてくれるのに」
「え?そうかな…」
「そうだよ。何でもお見通しって感じで、冷静に諭してくれるのに。今はもう、自分の気持ちが分からないーって感じ」
「分からないのは自分の気持ちじゃないの。伊沢の気持ちよ。まったく、あいつこの先どうするつもりなんだろ?」

恵真は、んーと首をかしげる。

「じゃあこずえちゃんは、どうしてこんなに伊沢くんのことが気になるのかが分からないって感じ?」

そう言うと、え…とこずえは言葉を失う。

「やっぱりそうだよ。こずえちゃん、伊沢くんのことが妙に気になっちゃうんでしょう?」
「それは、だって。捨てられた子犬に見つめられたら、誰だって気になっちゃうでしょ?」

恵真は、ふふっと笑ってこずえに顔を寄せる。

「こずえちゃん。伊沢くんは確かに無邪気だけど、子犬じゃないよ。立派な男の人だよ」
「なっ、何を言ってんの?恵真ったら」
「だって、こずえちゃんがいつまで経っても認めないんだもん」
「…何を?」
「伊沢くんのことが気になって仕方ないって。子犬としてじゃないよ?ちゃんと男の人として」
「…え、恵真?!」

こずえはもはや絶句して、ひたすら視線を泳がせる。

「こずえちゃんは伊沢くんが電話してくる度にヤキモキするんでしょ?冷静になれないくらいに。それって、どうしてなんだろうねえ」

恵真がそう言った時、お待たせしましたー!と料理が運ばれてきた。

「わー、美味しそう!ね、食べよう」
「う、うん。そうだね」
「いただきまーす!」

恵真は嬉しそうに、グリルチキンサンドを頬張る。

「んー、美味しい!ね?こずえちゃん」
「うん、そうだね」

頷きながら、こずえは恵真の言葉を思い返していた。

伊沢のことが気になる、それってどうして?

こんなにも自分の気持ちが分からなくなるのは、こずえにとって初めてのことだった。