ようやく笑いが収まると、彩乃は野中に話しかけた。

「ねえ、真一さん」

ゴホッ!と、他の三人が一斉にむせ返る。

「し、真一さん?!」
「なんだよ。別に普通だろ?」

野中は顔を真っ赤にしながらボソボソと呟く。

「うわー、色々新鮮!」
「何がだよ?あ、伊沢。お前、この事はくれぐれも職場で言うなよ」
「分かってますよ、真一キャプテン」
「アホ!お前はもうー!!」
「あはは!やったね。これで当分、俺には優しくしてくれますよね?真一キャプテン」

弱みを握ったとばかりに、伊沢はニヤリと野中に笑いかける。

「こいつー!覚えてろよー!」
「ねえ、真一さん」
「あ、うん。何?」

鬼の形相で伊沢を睨みつけていたのに、彩乃が声をかけるとコロッと表情を変える。

そんな野中に、大和と恵真は顔を見合わせながら笑いを堪えていた。

「私達の披露宴の司会、伊沢さんにお願い出来ないかしら?」
「え?この生意気小僧に?」
「まあ、そんなことないでしょう?伊沢さんは、私達が初めて会った時から、色々助けてくださったんだもの」
「うん、まあ…。そうだけど」
「真一さんが私にメールを送ってくれたのも、伊沢さんのおかげなんだし。ね?私はぜひ伊沢さんにお願いしたいの。いいでしょ?」

ああ、うん、と野中が頷くと、彩乃は伊沢に向き合う。

「伊沢さん。お願い出来ないでしょうか?」
「えー?俺、披露宴の司会なんてやった事ないし…」
「大丈夫です。そんなに堅苦しく考えないで、今みたいに楽しくお話してくだされば。ね?真一さん」
「んー、そうだな。俺からも頼むよ。なんだかんだ、伊沢が1番俺と彩乃さんの事を知ってるもんな」
「えー、でも。責任重大だなあ」

決心がつかずに迷う伊沢に、恵真が声をかける。

「伊沢くんなら大丈夫だよ。普段のままの伊沢くんでいいと思うよ。ね?大和さん」
「ああ。お前なら楽しく盛り上げられる。ま、話に詰まったら、野中さんの秘密の1つや2つ、暴露すればいいだけだよ」

おい、佐倉!と野中が咎める横で、それいいですね!と伊沢が乗り気になる。

「じゃあ、喜んでお引き受けします!」
「わあ!ありがとうございます!伊沢さん」
「伊沢ー、頼むぞー?色々、ほんとに頼むぞー?」

笑顔の彩乃の横で、野中は拝むように両手を合わせる。

その様子に、皆はまた笑い出した。