「お?伊沢、彼女出来たのか?」

席に座り直すと、早速野中が身を乗り出して聞いてきた。

「そんな訳ないじゃないですか。一体誰のことを言ってるんだろう?」

伊沢が首をひねった時、ポツリと大和が呟いた。

「恵真だ」

ええっ?!と、伊沢と野中は驚く。

「どういう事なんだ?佐倉。倉科は、藤崎ちゃんが伊沢とつき合ってると思ってるのか?」
「はい。去年の噂を信じているようです」
「噂?!ってあれ、1年も前の話ですよ?しかも嘘だし」
「その噂を信じている上に、恵真に言い寄ろうとしている」

ええー?!と、二人はまた声を上げて驚いたが、大和は黙って下を向いたままだ。

「おい佐倉。何かあったのか?」

心配そうに野中が尋ねると、大和はポケットからスマートフォンを取り出した。

「会社のSNSに、倉科さんと恵真の写真が載せられたんです。二人で一緒に飛んだ時に撮影したものなんですけど。その反響が大きくて、更にインタビュー動画まで撮影して…。俺もすっかり忘れてましたが」

大和がスマートフォンを操作して会社のSNSを開くと、倉科と恵真が滑走路の飛行機をバックに笑顔で並んでいるサムネイルがあった。

大和はじっと画面を見つめる。

「さ、佐倉さん。別に見なくてもいいんじゃ…」
「そうだよ、佐倉」

思い詰めた様子の大和に二人が声をかけるが、大和は意を決したように再生ボタンをタップした。