「へえー、なるほど。そんな事があったのか」

空港から近い居酒屋で、早速伊沢は野中の話を大和にする。

「そうなんですよ。俺のこと『伊沢ちゃん』とか言ってアドバイス求めてきて。まるで中学生みたいでしたよ」
「あはは!あの人、いつもは後輩に人生の何たるかを語るのに、自分の恋愛となるとそんなに人格変わるんだな」
「もう変わりまくりですよ。俺、何度背筋に寒気が走ったか」
「分かる。俺もさっき身震いした」

二人で頷き合って苦笑いする。

「それでその女性、彩乃さんっていうんですけど、今度野中さんの便に搭乗するらしくて。降りたあと食事する約束したんですって。その時にプレゼントを渡して告白するつもりみたいですよ。野中さんいわく、ファイナルアプローチ、ですかね?」
「だろうな。で、そのプレゼントを恵真と一緒に選ぶらしい」
「ええ?いつ?」
「ちょうど今。あの二人、今日ロンドンステイだからさ」

ほえーと伊沢は仰け反る。

「佐倉さん、心配じゃないんですか?恵真と野中さんを二人にして」
「ん?いや、あの野中さんだしな。しかも今は舞い上がりまくってるし。でもまあ、抱きつくなとは釘を刺しておいた」
「あはは!刺しましょう。それはグサッと刺しておきましょう」

おかしそうに笑う伊沢に、大和は真顔に戻って話し出した。

「伊沢、お前は本当にいいやつだな」
「え?なんですか、急に」
「いや、だって。野中さんは41歳だぞ?お前とは、えーっと13歳も違う。そんな年下のお前に相談するってことは、それだけ野中さんはお前を信頼してるってことだ」
「うーん、たまたまいつも近くにいるからじゃないですかね?」
「いや、違うよ。だって俺もお前のことを信頼してる」

えっ!と伊沢は驚いて大和を見る。

「一緒に飛ぶとさ、その人がどんな人なのか全部分かるんだ。気が弱かったり、プライドが高かったり、自己流を貫いたり、色んな人がいる。でもお前は、いつも絶妙なタイミングで的確なコールをしてくれる。俺がやりやすいように、さり気なく気を配ってくれる。野中さんもきっと、そんなお前だから相談したんだと思う」

思わぬ話に、伊沢は目頭が熱くなった。

「伊沢、お前は絶対いいキャプテンになる。俺が保証するよ」

そう言って笑いかけてくる大和は、男の自分から見ても目が眩むほどかっこいいと伊沢は思った。

(敵わないな、この人には)

伊沢はうつむいて、ふっと笑みを漏らした。
なぜだか心が晴れやかになるのを感じながら。