気持ちを入れ替えて乗務をこなし、帰宅して恵真の笑顔を見ると、大和はようやくホッとした。

「お帰りなさい!大和さん」
「ただいま、恵真」

抱き寄せて、柔らかい恵真の頬にキスをする。

昼間の心のざわつきが嘘のように、大和は幸せで胸がいっぱいになった。

(他の男のことなんて気にせず、今、目の前にいる恵真だけを見つめていよう)

そう思いながら、恵真との夕食を楽しむ。

たが、その恵真から思いがけない話をされ、大和の心は再び乱れた。

「えっ?インタビュー?」
「はい。SNSの写真の反響が思いのほか良かったらしくて。広報の川原さんが、お客様からの質問に答える形でインタビューさせて欲しいって。その様子を、今度は動画で配信するみたいです」
「動画で?!」

それはちょっと…と大和はためらう。

「恵真、その話もう引き受けちゃったの?」
「え?はい。だって会社の方針ですから」
「でも…。恵真の動画が流れるなんて、心配でたまらない。ファンに追いかけられたらどうするの?」

………はい?と、恵真は箸を持つ手を止めて瞬きを繰り返す。

「大和さん?えっと、何のお話を?ファンって、誰ですか?」
「だから、恵真のファンだよ。動画を観たファンが恵真に会おうと、空港でサインや握手を求めてくるかもしれないだろ?それに追いかけられたり、抱きつかれたりしたら…。ど、どうしよう俺。想像しただけで耐えられない」

深刻な表情の大和に、恵真は返す言葉に詰まって固まる。

「あの、えーっと。大和さん?お言葉ですが、おっしゃってる事がかなり変ですよ?」
「どこが変なの?」
「いやだって…。アイドルがファンに追いかけられるのは分かりますけど、パイロットですよ?そんな話、聞いたことありません」
「恵真、危機管理能力が低すぎるぞ?もっと自覚を持って」
「自覚?って、何の自覚ですか?」
「自分が可愛くて狙われているって自覚」

恵真は完全に動きを止める。
大和が真剣に訴えている意味がまるで分からない。

「大和さん?えっと、何かのジョークとかですか?それとも私をからかってます?」
「そんな訳ないよ!俺は本気で心配なんだ。実際に今日も倉…」

思わず倉科キャプテンの名前を出しそうになり、大和は思わず口ごもる。

「ん?どうかしましたか?」

恵真が小首をかしげるが、大和は、何でもないとうつむいた。

(倉科さんが恵真を狙ってることなんて、絶対に言いたくない!)

完全なヤキモチだったが、大和は心の中でメラメラと倉科への対抗心を燃えたぎらせていた。