元婚約者に一度だって顧みてもらえなかったわたしを、というよりかまともに見てもらったことのないわたしを、そこまで想ってくれているのだから。

 そういうことにしておくことにする。

「イザベルがあなたの愛する人だと思い込んでいたの。じつは、見たの。あなとイザベルを。疫病が流行る前のことだけど、東屋で抱き合っていたでしょう?」
「もしかして、あのときの」

 彼はまた立ち上がると執務机に行き、抽斗からなにかを取り出して戻ってきた。