この日、わたしの精神の糸が切れた。「ブチッ」と大きな音がし、盛大に切れた。

 それは、婚約破棄を言い渡されたからではない。

 婚約破棄のことはどうでもいい。ウイルクス帝国の皇太子ブラッドフォード・ウエールズのことは、ほんの数回見かけただけの存在。その数回もつねに美しいレディを侍らせていた。それが姉妹や従姉妹でないかぎり、あきらかに浮気相手のはず。そのような男に興味を抱けるわけがない。

 だから、婚約破棄されたことはちっともかまわない。