「殿下、仰せのままに」

 チャーリーの命令に、近衛隊の隊長だけでなく隊員たちも恭しく頭を下げる。

「そ、そんな……」

 隊員二人に床に抑え込まれているお父様の声は弱弱しい。

「ラン、愛する妻よ」

 チャーリーが腕を差し出してきた。

 彼は、せいいっぱい演じてくれている。

 わたしの為に冷酷非情な王太子を。それから、無慈悲な夫を。

「はい、殿下」

 その腕に自分の腕を絡め、そのまま彼に体をよせた。

「待て、待ってくれ。ラン、頼む。命だけは、わたしの命だけは助けて……」

 愚かなのは元婚約者だけではない。

 実の父親もである。

 愚かというよりかは、自分のことしか考えていない。