「ランが建国記念のパーティーで皇太子に婚約破棄をされ、帝都から追放になったことは占領軍であるギルモア王国の外交官も見聞きしています。ですから、たとえ彼女を差し出しても彼らは鼻で笑うだけですよ。それどころか、彼らはわが国に遠慮して丁重に扱った上で送り届けるはずです。なにせランは、王太子であるおれの正妻なのですから。ギルモアは、わがアディントン軍を怖れています。もちろん、外交面でもです。おれが外交官だったとき、何度もギルモアの外交官に手痛い思いをさせましたので。軍事面でも同様です。軍事大国と自負するギルモアの唯一苦手な国が、わがアディントンです。そういうわけで、あなたがせっかくここまでやってきたことは、徒労に終わったわけです。というよりか、命を危険にさらしただけです。わが妻を侮辱しただけでなく、その命を弄ぼうとした罪は重い。いまここでその薄汚い首を切り落とされてもおかしくないです。なんなら、切り落とした首をギルモアに渡してもいい。あるいは、生きたままギルモアに渡し、彼らに首を切り落としてもらってもいい。いずれにせよ、あなたは妻子を助けるどころか、自身の命が絶たれてしまうことにかわりはない。どちらでも好きな方を選んでください。ああ、われわれは忙しいのです。あなたがいまのふたつの案を選択する時間を待っている暇はないのです。すでに人と会う約束の時間をすぎていますから。隊長、彼の意向をきいてそれに添ってくれ。それがせめてもの手向けになるだろう」