僕は身体を捻り,上に乗るアイザを傾けて。

よりがら空きになった腹を蹴り上げた。

パシリと自身の両手をはたく。



「……そんな予定はないからな。外に生きるお前なら知ってるだろ? そう言うのをクズと言うんだ……この下衆が」



冷たく見下ろすと,アイザは僕をせせら笑った。



「すごいな,でもこうすれば同じ手は2度も食らわない」



アイザは撫で付けるようにゆっくりと,固く僕の片手を掴む。



「僕には体力がない。でも,筋力はそこそこにある。長距離の苦手な短距離選手みたいなものだ」

「何の話?」

「外から取り寄せた指南書からの独学にはなるが,多少武術も護身術も扱える。生まれつき軟体だしな」



クルリと回す動作1つで,僕は拘束を解いて見せた。



「最後の忠告だ,アイザ。僕の花のエサになるか,タルトの大剣に切り落として貰うか,2度と余計な気を起こさないと誓うか,選べ」



一度目だからと,選択肢を3つも用意したのは僕なりの優しさだ。




「……分かった。僕の負け,降参だ」



危うい。

その軽薄な笑みを見て僕は気味悪く思いながら背を向ける。

その間1度も近づいてこなかったことを気配だけで判断して,僕は別の場所に寝床を作った。