僕の隣に何の不自由なく立つ男は,迷いを捨てきれずにいる表情のまま,はっとして前に出る。
けれど口を開いたときにはもうとっくに遅い。
男の奪還を胸に,子供を含めた数十の人間が一気に押し寄せていた。
雄叫びが脳を震わす。
僕も男も,片手を耳に当てる他ない。
「ちょっと待て,みん」
「もういい。僕が動いた方が100倍早い」
僕が人間離れした様子で空に浮かぶと,彼らは驚愕に足を止めた。
それでも戦いの意思は消えず,結局は騒がしいまま。
「ジョン。わたくしちゃま,少しずつやってみる」
「~ジョン……!」
それはきっと,僕だけに届いた。
遠くから駆けるタルトの声が僕の耳を空耳のように掠め。
僕は顔ごとそちらへ向く。



