○放課後・教室。残ってる生徒は数名


佑美「心菜、大丈夫?」


昼休みに体育館でボールがおでこに当たり、5・6限目は保健室で休んでいた心菜。

保健室から教室に戻ると、佑美が心配そうな顔で駆け寄ってきた。


心菜「大丈夫だよ。ほら、腫れもすっかり引いたし」


心菜が前髪をかき上げ、普段通りの心菜のおでこに佑美は安堵の表情を浮かべる。


佑美「良かったぁ。はい、これさっきの授業のノートだよ」

心菜「ありがとう。そういえば、拓弥は?」

佑美「ああ。日直の仕事で、プリントのホチキス留めやってる」

心菜「日直……ああっ!」


今日自分も日直だったことを思い出した心菜は、慌てて拓弥の席へと向かう。


心菜「ごっ、ごめん拓弥! 今日は私も日直なのに、拓弥一人で仕事させちゃって」

拓弥「ん? ああ、いいよ。別にこれくらい。佑美も手伝ってくれてたし」


心菜「今から私もやるよ」

拓弥「いいよ。あとちょっとだし。俺一人でやるから、心菜は先に帰れ」

心菜「でも……」


机には、まだ沢山のプリントが残っている。


拓弥「心菜はおでこ打ったあとだし、今日は無理しないほうが良い」


心菜(拓弥は私がいない間、黒板消しとか日誌書いたりとか、全部一人でやってくれてたんだよね)

一人で日直の仕事をする拓弥の姿が、心菜の頭の中に浮かぶ。


心菜(拓弥の気持ちは有難いけど、これ以上拓弥ばかりに負担をかけさせたくないよ)


心菜は拓弥の前の席に座ると、何枚かプリントを手にする。


拓弥「あ、おいっ」

心菜「心配してくれてありがとうね、拓弥。
腫れも引いたし、本当にもう痛みもないから大丈夫。それに私、自分の仕事はちゃんとやりたいんだ」

拓弥「ったく心菜、お前って奴は……。
心菜のそういうとこ、ほんと好きだわ」

心菜「ん? 何か言った?」

拓弥「ううん。それじゃあ一緒に頑張ろうぜ」


机を挟んで向かい合って座り、作業する心菜と拓弥。そんな二人を、佑美はニヤニヤ顔で見ていた。


佑美「なんかふたり、良い雰囲気じゃない?
さてと。お二人の邪魔しちゃ悪いから。あたしは先に帰らせてもらいますか」


二人に聞こえない小さな声で言うと、佑美は教室を出て行った。