その甘さに、くらくら。

 噛みついて血を吸い続け、満たされると目が覚めた。心地良すぎる夢から叩き起こされたような感覚だった。

 大変なことをしてしまったことに心臓が暴れ出し、自分が噛んでしまった相手を見る。その相手が誰かを認識した瞬間、俺は更に肝を冷やした。

 五月女だった。そこにいたのは、五月女だった。

 五月女が、噛まれた首を抑え、息を荒くし、熱い瞳で俺を見ていた。赤眼だった。噛まれたからそうなったのか、元々そうなっていたのか。当時は判断できなかったが、今となっては思う。恐らく後者だ。五月女も飢えていたから、夜道を出歩いていたんじゃないか。そこで、適当な人を選んで噛むつもりだったのかもしれない。それを俺が、邪魔した。

 眼が、もう此奴でいいと言っていた。先に噛んだのはお前だ、これはお前のせいだと言っていた。お互いがヴァンパイアであることを、その時初めて知ったが、俺も五月女も会話ができるほど冷静ではなかった。俺は動揺し、五月女は発情し、襲い襲われる関係が逆転したのは言うまでもない。

 俺は五月女に噛まれ、襲われた。発情させられ、頭が沸騰した。そこから先は、よく覚えていない。気づいたら朝になっていて、俺は自宅のベッドの上で寝ていた。五月女の血の味だけは、よく覚えていた。

 後日、五月女には謝罪した。何度も頭を下げたが、五月女からこれと言った返事はなかった。元々寡黙な人だった。

 決して許してもらおうなどとは思っていない。それくらいのことを俺はした。俺を恨んだ五月女が俺の正体をこっそり言い触らしたとしても、文句を言うつもりはなかった。でも、五月女は俺のことを、誰にも告げ口しなかった。