ない。ない。血液が、ない。血液の入ったパックが、ない。

 頭を突っ込むような勢いでカバンの中を弄るが、あるはずのものに手が触れない。あるはずのものが視界に入らない。

 気づかぬうちに落としてしまったのかと床を見回すが、どこにもそれらしきものはなく、探し物は見つからなかった。そもそも、落下すれば床に当たる衝撃音がするはずだ。それを俺は耳にしていない。落とした覚えすらない。周りのクラスメートだって、その音が聞こえた様子はない。落とせば分かるものを落とした覚えが俺自身にないのだから当然だった。

 もうほとんどの人が弁当を広げ、和気藹々と談笑している。食事をしている。落とし物を見つけたような人はいない。誰も俺を気に留めない。各家庭の弁当の匂いが広がっていく。

 ゆっくりと息を吐く。冷静になる。決して分かりにくいものではないはずだ。寧ろ目立つもののはずだ。パックに入れ、漏れないよう、漏れても被害を最小に防げるよう、二重にナイロン袋に詰め、カバンの奥に入れていたそれ。落とせば分かる。どこかに落ちていても分かる。カバンに入っていればもっと分かる。分からないはずがない。それなのに見当たらないということは、この教室にはないということだろうか。もしくは誰かが。

 クラスメートを疑いたくはない。俺が定期的に血液を飲まなければならない体質であることを知っている人などいないはずだ。俺がそれを毎日持参していることも。仮にもし知っていたとしても、わざわざ他人のカバンの中に手を突っ込んで血液を奪い、俺を困らせるような真似をする理由の見当がつかない。