アル様は私の返事を聞いて明らかに落胆した様子を見せた。その物憂げな表情ですら一枚の絵画になってしまいそうなほど美しい。
「あー……そっちの意味かあ」
 あまりの美しさに見入っていたせいでアル様のぼやく声は私の耳には届かなかった。
 アル様は小さく溜め息を吐いて微苦笑を浮かべた後、ゆっくりと席に着く。
 遠くを見るような目で天井の一点を見つめ、テーブルの上に手を置いて人差し指をトントンと叩きながら思案深げにしている。やがて視線を私の方に戻すと、少し困った様な表情を浮かべてから言った。
「シュゼット令嬢の作るお菓子は大好きだよ。だからこれからも僕のために美味しいお菓子を作って欲しいな」
「もちろん。アル様のためならなんでも作りますよ!!」

 アル様はこのパティスリーのお得意様で特別な存在だ。
 これからもお菓子の試作品を食べて感想を言ってもらいたいし、ここに足を運んで欲しい。
 私の返事を聞いたアル様はこっくりと頷いた。
「今はその返事が聞けただけ幸せかな。……それじゃあ改めてアップルタルトをいただくよ。シュゼット令嬢も自分の分を用意しているんだから一緒に食べよう」
 アル様はカトラリーを手に取ってアップルタルトを食べ始める。
 私もそれに倣ってカトラリーを手に取ると、アップルタルトを一口サイズにカットして味を確かめた。