「……これからどうしようかしら。フィリップ様に婚約破棄されてしまったから、今の私に相手はいない。私がカリナ様を虐めていたという話は、私と婚約破棄するために彼がでっち上げた作り話だけれど、大勢の前で真実のように語られたから、周りはきっと私を悪女だと思い込んだはず。爵位だけはあるとはいえ、家が没落しかかっている性格最悪な女と結婚したい殿方なんていないわ」
 人の口に戸は立てられない。面白おかしく脚色されてさらに噂は広まり、私の評判は下がるだろう。
 社交界に足を運んでも暫くは白い目で見られそうだ。それならいっそのこと傷心旅行も兼ねて世界樹を見に行く旅に出てみようか。

 世界樹はすべての魂の輪廻転生場所とされている。
 海の上に浮かんでいるまほろば島に大樹はあり、メルゼス国の南西部の港町からそれを眺めることができる。けれど、いくら船を出しても島へ近づくことはおろか、上陸することは叶わない。
 何故ならまほろば島は世界樹を妖魔から守る魔法使いの一族によって結界が張られている上、船で近づけないよう普段から複雑な海流が流れているからだ。上陸するにはそれ相応の理由と魔法使いの許可が必要で各国の王族や要人ですら不可能だと言われている。
 世界樹をこの目で確かめるにはどういった手段を取れば実現するだろうか。もしかしたら死ぬことでしか近づくことはできないのかもしれない。