ハーブティーを半分ほど飲んだところで、青年はお待ちかねのミルクレープに視線を向ける。
 形が崩れないよう綺麗にナイフでカットするとフォークに刺してぱくりと食べる。
 口に入れたその瞬間、青年は紺青色の瞳を輝かせた。頬もほんのりと上気していて恍惚としている。
 一口、また一口とミルクレープを口に運ぶ青年はほうっと小さく溜め息を吐いた。
「――……やっぱり、ここのお菓子はとびきり美味しい」
 青年は私に言うでもなくぽつりと呟くと再び無言でミルクレープを食べ進めていく。

 しっかり彼の言葉が耳に届いていた私は心臓の鼓動が急激に速くなり、全身がカアッと熱くなるのを感じた。
 今まで『美味しい』という感想はお客様からもらっていたけれど『とびきり美味しい』なんて最高の言葉はもらったことがない。あまりの嬉しさから私は泣きそうになる。
 けれどここで涙を流せば、お客様を困らせることになるし大事なティータイムを台なしにしてしまう。
 なんとか耐えなければ。
 私はさりげなく上を向いて涙が零れ落ちないように瞬きを繰り返した。