我がキュール家は由緒正しい家柄ではあるものの、ここ数年は権威が失墜の一途を辿っている。家計は火の車状態ではっきり言えば首が回らなくなっているのだ。


 キュール家はいくつもの鉱山を所有していて、そこから収入を得ていたのだが、七年前から鉱物石が採掘されなくなってしまった。そこに追い打ちを掛けるように五年前には領地が水害に見舞われ、その復興や治水整備に莫大な費用が掛かってしまった。
 結果として借金を負う羽目になり我が家は没落しかけている。

 鉱物石さえ採掘できていれば復興や治水整備の費用を賄うことができただろう。しかし、いくら鉱山内を隈なく探索しても鉱物石は見つからない。可能性のある場所に新たな坑道を設けようにも巨大で頑丈な岩壁によって開拓することもできない。手の施しようがない状態だった。
 フィリップ様との婚約はそんな状況下でありながらも着々と進められていた。お父様と先代プラクトス伯爵は親友で、うちが困窮する前からお互いの子供を結婚させようと約束していたのだ。

 メルゼス国は恋愛結婚が普及しつつあるけれど、貴族間の政略結婚は未だに根強い。だから私自身はフィリップ様との婚約に何の不平不満もなかったし、当たり前のことだと思っていた。
 それに首が回らない爵位だけが取り柄になりつつあるキュール家の娘をもらってくれる殿方がいるのならありがたいとさえ感じていた。彼と一緒になったら足手まといにならないよう、女主人として屋敷の管理はしっかりしようと勉学にも励んでいた。
 ところが、この婚約には一つだけ欠点があった。