プラクトス伯爵家の豪華絢爛なサロンの中央にて。
 私は婚約者であるフィリップ・プラクトス様から婚約破棄を告げられた。

「シュゼット・キュール侯爵令嬢! おまえとの婚約は破棄する!!」
 予想もしていなかった展開に私は目を白黒させていた。
 彼の隣には可憐で儚げな少女――カリナ・ライオット男爵令嬢が寄り添っていて、怯えた小動物のような瞳で私を見つめている。


 今夜は婚約者であるフィリップ様の伯爵就任を祝う式典が開かれていて、サロンには招待された貴族が大勢集まっていた。周囲は衝撃的な内容に動揺を隠しきれず、さざ波のようなざわめきが室内に広がっていく。
 渦中の私も例に漏れず動揺し、ただ呆然とその場に立ち竦んでいた。

「……どうして婚約破棄されるのか理由をお聞きしてもよろしいですか?」
 上擦った声で尋ねるとフィリップ様は煩わしそう答えた。
「分かりきったことを尋ねるな。おまえとの婚約は親同士が決めた政略結婚だからに決まっているだろ。キュール家と結ばれたところでこちらにメリットなんて何もない。そして、父上が亡くなり結婚の書面もない以上、守る義務などどこにもない」

 フィリップ様の意見はもっともなことばかりで私には反論の余地もなかった。