カリナ様は自覚していないようだけど、その人が直向きに彼女を思っていることが私には分かる。だって、一人でうちのパティスリーに来て、カリナ様が好きないちご味のマカロンを買っていく人だもの。
「カリナお嬢様」
「……ハリス?」
 ハリスが優しく声を掛けるとカリナ様は弾かれたように目を見開いた。
「お嬢様。僭越ながら申し上げますが、私はずっとお嬢様のことが心配でした。自分が従者で対等な立場にないことは分かっています。余計なお世話だということも。……でも、お嬢様が自分自身に嘘を吐いて傷つき悲しむ姿も、誰かを恨む姿も見たくありません。私では役に立たないことは百も承知ですけど、寄り添って話を聞くことくらいはできます」
 ハリスは懐から綺麗にラッピングされたピンク色のマカロンを取り出すと、カリナ様の前で膝を突いて差し出す。

 カリナ様が美味しいと言っていたマカロン。
 彼女の好きないちごの味。

「そんなの買うお金の余裕なんてないでしょ。給金がまともに支払われてないことくらい知ってるんだから」
「お嬢様が最近一番幸せそうな顔だったのがこのマカロンを食べていた時でした。あなたにはいつも笑っていて欲しいんです」
 だからもう自ら茨の道を進むのはやめましょう。
 優しく語りかけるハリスはマカロンを彼女の手にしっかりと握らせる。
「シュゼット令嬢が作るお菓子は魔法のお菓子です。だからまたこれを食べて笑ってください」
「……馬鹿。ハリスったら大馬鹿者だわ」
「大馬鹿で構いません。お嬢様が笑ってくれるなら」
 彼女の瞳からは怨念の籠もった炎が消えていく。