「おい誰だおまえは? シュゼットの小間使いか? 招待客以外は立ち入り禁止だ。すぐに出ていけ」
「フィリップ様ったら小さな子に対して攻撃的な態度は良くないですよっ」
 落ち着きを取り戻したカリナ様がハンカチで涙を拭うとフィリップ様を窘める。
「ここは招待された人以外立ち入り禁止だから、お姉さんが会場の外まで連れて行ってあげるわ。さあ、一緒に行きましょ」
 カリナ様が手を差し伸べると、ネル君は勢いよくその手を払い除けた。
「小賢しい女が僕に指図しないでくれる?」

 一度も聞いたことのない冷ややかで低い声。
 一瞬誰が声を発したのか分からなかった。
 私からはネル君の表情は見えないけれど、彼からは冷え冷えとした空気が漂ってくる。周りもそれを感じ取ったようで喋るのをやめて息を潜めている。
「……ライオット男爵令嬢だったかな。もうこんな茶番はやめたらどう? あなたがケーキを台なしにした犯人だってことは分かってるよ」
「まあっ、どうして依頼主の私がケーキを台なしにするの? 今日の主役は私なのよ? 言いがかりはやめてちょうだい」
 カリナ様の瞳には再び涙が溜まり始める。
 ネル君は深い溜め息を吐くと彼女の手首を掴んで持ち上げた。